きょう、もし御声を聞くならば、あなたがたの心をかたくなにしてはならない。(ヘブル4:7)
昨日の思想によって子供を縛るのは教育ではなく訓練である。…教育は訓練ではない。創造である。 (野村芳兵衛)
2012年4月10日火曜日
レヴュー「セントエルモの火」
BUMPの『COSMONAUT』収録のアルバム曲「セントエルモの火」。このアルバムの中でも一位二位を争うくらい好き。このレヴューを読んで下さる方がいたら、是非このブログの解釈・意味ながめる前に原曲を聴いてみて下さい。
原曲こちら。
「君」を追いかけて坂道を歩く「僕」。曲の中で何度も「僕」はこう問いかける。「どれくらい先にいるんだろう?/how far are you?」と。自分にとっての大切な人(友人?家族?恋人?)と一緒に生きているにも関わらず、その人のことを自分からあまりに遠くに感じたりすることがある。むしろ、そういった「自分と相手とは違う」という当たり前の事実に、心の距離が近いからこそ気づけないのかもしれない。だけど、大切な人との関係のなかで、ときに僕たちは迷子になる。隣にいたはずの相手が、今はどこにいるのか解らなくなる。そういうときほど、僕らは解り合おうとしても解り合えないことに気づく。解って欲しくて、解ってあげたくて、何度も何度も言葉を重ねて、それでもすれ違って。
他者とのそんなどうにもならない関係に悩むとき、どうしたらいいのか。「一緒に生きてる事は当たり前じゃない」と気づくとき、どのように相手と関わり合っていけるのだろうか。曲中の「僕」は、ただ相手を追ってついて行くことを選ぶ。
「解り合おうとしたら迷子になる 近くても遠くてややこしくて面倒な僕らだ
だからついて来たんだ 解り易いだろう ちょっとしんどいけど楽しいよ」
僕らはよく勘違いしてしまうが、他者関係において「解り合おう」とすることと「ついて行く」ことは、圧倒的に違う。この曲は、その二つの言葉の差異について歌っている曲だといってもいいだろう。
相互理解を目指すことは、自分と同等に相手にも理解を要求することだ。つまり、「解り合おう」という美しい言葉は、意外なほどやすやすと、「私もあなたのことを理解するから、あなたも私のこと理解してね」という交換の言葉に転じてしまう。そこでは、自分の責任を果たすことの交換条件として、相手にも同じものが要求される。そしてそれは、もう一歩進めば、責任を果たさない相手を責める言葉になる。僕らは、相手に対して「何で解ってくれないんだ」と嘆きながら、同時に「あいつの言動の意味が分からん」と不平を言う。なんて自分勝手な生き物だろう。なんてバカなんだろう。なぜ自分を理解しない他者を責めながら、「相手のことを解ってやれない」自分を責めないのか。
解り合おうとしたら迷子になる。相手に責任を押し付ける罠から逃れるために、「僕」は「ついて行く」ことを選ぶ。たとえ解ってもらえなくても、相手のことがまだ解らなくても、ただ「君」という場所に向かって。
その道程を、「僕」は「しんどいけど楽しい」と表現している(この「楽しいよ」の藤君の歌声は心底胸が震える)。それは、悩みと葛藤に涙しながら、それでも前を向き進んでいくような、「わからない何か」で胸が満たされている心の様子。
そして、「僕」は決して自己犠牲を目指して英雄ぶっているわけではない。繰り返し歌われる「お互い様」という言葉が、そのことを表している。
「how far are you? 僕が放った唄に 気づいてないなら
いつまでだって歌おう 君のおかげなんだよ
いつも探してくれるから 必ず見つけてくれるから」
僕が君を探しに追っていく前に、君がまず僕を探して見つけてくれた。だから僕が今してることも全部、「君のおかげ」なのだ。
「お互い様」という言葉が好きだ。これは、「相手から自分」「自分から相手」という双方向性を示す言葉でありながら、決して相手に何かを要求するための言葉——相手に責任を押し付け、自分を正しいものとする言葉——にはならない。むしろこれは、相手が自分に為してくれたことについて感謝をもって思い返す言葉。「自分はこれだけやってるんだ」という思い上がりを拒絶する言葉。きっと、自己が支えられていることへの気づきによって、大切な人との関係は紡がれる。
____________________
「セントエルモの火」 作詞・作曲 藤原基央
夜が終わる前に追い付けるかな 同じ坂道の上の違う位置で
同じ場所に向けて 歩いてるんだ 今どんな顔してる
どれくらい先にいるんだろう
言葉を知ってるのはお互い様な 言葉が足りないのもお互い様な
勝手について来たんだ 構わず行けよ ほら全部がお互い様な
how far are you? 星が綺麗な事に 気付いてるかな
僕が気付けたのは 君のおかげなんだよ ずっと上を見てたから
急に険しくなった手も使わなきゃ ここ登る時に怪我なんかしてないといいが
立ち止まって知ったよ 笑うくらい寒いや ちゃんと上着持ってきたか
解り合おうとしたら迷子になる 近くても遠くてややこしくて面倒な僕らだ
だからついて来たんだ 解り易いだろう ちょっとしんどいけど楽しいよ
how far are you? 震える小さな花を 見付けたかな
闇が怖くないのは 君のおかげなんだよ 君も歩いた道だから
言いたい事は無いよ 聞きたい事も無いよ
ただ 届けたい事なら ちょっとあるんだ
ついて来たっていう 馬鹿げた事実に
価値など無いけど それだけ知って欲しくてさ
どれくらい先にいるんだろう どれくらい離れてるんだろう
靴紐結びがてら少し休むよ どうでもいいけどさ 水筒って便利だ
寝転んでみた夜空に 静寂は笑って 月が滲んで揺れる
解らない何かで胸が一杯だ こんなに疲れても足は動いてくれる
同じ場所に向けて 歩いてたんじゃない 僕は君に向かってるんだ
how far are you? 一緒に生きてる事は 当たり前じゃない
別々の呼吸を 懸命に読み合って ここまで来たんだよ
how far are you? 僕が放った唄に 気付いてないなら
いつまでだって歌おう 君のおかげなんだよ いつも探してくれるから
必ず見付けてくれるから
今どんな顔してる ちょっとしんどいけど楽しいよ
ほら 全部がお互い様な さあ どんな唄歌う
どれくらい先にいるんだろう どれくらい離れてるんだろう
どれくらい追い付けたんだろう
さあ どんな唄歌う
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿